にこ繭。(cocoonPのBlog)

はてなダイヤリーからインポートしたかつてのBlogの跡地です。

ニコマス動画における「高い技術」とは?

夜通し仕事をして、明けたらLive for you!が届きました。早速少しプレイし、ふと気づいたら公式サイトでアンケートが行われていたので、こんな文章を意見・感想欄に書いてきました。

ファミコンのころからナムコのゲームのファンですが、正直なところ、ゲーム部分は少々物足りない感じがしました。せめてコミュニケーション部分に選択肢があるなど、もう少しゲームらしいボリュームがあってもよかったかなという気がします。
システム的に大きな変更を加えられなかったと坂上Pがメディアで語っておられた記事を読み、仕方がないのだろうなとは思いながらも、内容的には「ファンディスク」的なものを超えてはいなかったため、ゲームファンとしては少し残念でした。
ただ、「アイドルマスター」ファンとしては十分楽しむことができ、一回のプレイ時間が長くならずに済むという利点でもあるとは思います。
ゲーム映像をキャプチャして自分で加工し別な動画を作って楽しむのに役に立つことも意識されたつくりだなと感じました。
なお、特典DVDに収録されていた、メインコンテンツのアニメ以外の映像も大変楽しめました。もし通常版を購入していたら7000円はちょっと高いなと感じると思いますが、限定版についてはこのDVDが付属することによってそのようなことはありませんでした。
引き続きダウンロードコンテンツや続編、CD展開などを楽しみにしています。

というのは実は全然この記事には関係なく。id:sikii_jさんにidコールまでされているので言及せざるを得ないかなーと思ったので、少しニコマスの「技術」に関することを書こうと思います。ただし、本稿に結論はありません。ただ思うところを述べるのみです。


敷居の先住民 「創作物の魅力は労力や技術だけでは決まらない」(id:sikii_jさん)より

手間かかってなかろうが技術的に大したことなかろうが、良いものは良いのです。

本当にそうでしょうか。「受けるものが受ける」ならば100%同意します。そして、着眼点が再生数やマイリスト数のみなのであれば、それは「真理」だと言い切ってしまってすら良いと思います。
ただ、敷居さんが言及している魔汁Pの発言は、ただの謙遜でしょう。あの動画はsitaPの編曲や、こんにゃくP、わかむらPの止め絵だけがすばらしいのではありません。
魔汁Pの過去作もどれもそうなのですが、あの動画には、カメラワーク、ダンスの選択など、アイマスMADにおいて不可欠だけれども実に地味なためあまり省みられない「編集」という技術がものすごい高水準で詰まっています。自分は、MAD動画の作り手の「技術」のキモというのは、そういうところにあると思います。表現方法として、「動画」を選択していて、ニコニコ動画は「動画」を投稿するサイトなのですからね。

以前、IRCでわかむらPやitachiPなどと話していたときに、「クオリティが高いように見せかけるために、わざと品質を落とし不自然な箇所を残す」という話をしていました。
どういうことかというと、映像技術というのは、実は高まれば高まるほどアウトプットは「自然」になり、たとえばアイマスMADの場合、元のアイドルマスターのゲーム映像にイメージが近づいて行きます。そこに技術が使われていることがわからなくなって行きます。これはいわゆるダンスの切り貼りのみに限った話ではなく、「飛び道具」の代表ともいえる、いわゆる「抜き」でも同じです。30fpsで抜き、一枚一枚を完全に不自然さがないように姿勢を修正し「実際にはアイマスのゲームディスクには収められていない動き」を再現したとき、それは完成度が高ければ高いほど、視聴者には気づかれないものとなってゆくのです。そこまで大げさでなくとも、敷居さんのエントリ中にもあるように、とてもよく出来た3拍子のアイマスMADなどでもよく起こっている現象ですね。つまり、品質がある程度低いほうが高クオリティであると評価されているのが現状なのです。「良いものは良い」のではなく、「ある程度不自然さを残すなどしてアピールし得るものこそが『良い』とされる」わけです。
ある映像が、「もともとそうであったのか」、それともそのPの編集技術が卓越しているために「もともとそうであったかのごとく見える」のか、というのはPの「技術」を語る上では非常に大きなポイントです。
どちらのほうが受けるかを判断して、わざわざLo-Fiなものを選択する作り手の判断能力が「技術」なのだ、という見方もできるとは思います。しかしそれは「技術」という言葉の持つイデアからは比較的遠いところにあるのではないかなと思います。
別にそうしてアピールする事を批判しているわけではありません。ただそれを「技術」と呼ぶのは何かが違うのではないか、と感じるというだけです。たとえ話をするならば、エンジンやボディ、タイヤなどほとんどのパーツを他社から購入して、ボディの塗装やエンブレムだけ自社オリジナルの物をつけた車が非常に売れ行きがよかったとき、そのメーカーは果たして「高性能な自動車をつくる『技術』を持っている」と呼べるでしょうか?

自分は、ニコマスで「技術」と呼ばれて称えられているものは、じつは「目新しさ」なのではないかと思っています。世の中にはわざわざ『ウケる技術』『モテる技術』という書名の本がありますが、それが王道ではないからこそ、その書名が目新しく感じ、その本自体が「ウケる」のでしょう。なんらかの制約があってそれまでほかの人がやっていなかったことをやること、というのはとても目新しく感じます。だからこそ、「ここが違うんだよ」というアピールを行っている動画は魅力的に映るのではないでしょうか。たとえば、自分がカクテルパーティ2に寄せた動画も、さまざまな制約があるためにそれまでほとんどの人が選択しなかった祭典ステージを用いたゆえに目新しい映像となっていることが、さまざまな方にご好評いただいた大きな要因であることは明らかですし。

そして、ここに自分は見る側と作る側の認識の違いというか、見る側の多くの方が陥る「錯誤」があるように感じます。例にでた魔汁Pをはじめとして、ねこP、tloP、くらわんP、猫ロキP、itachiP、まくらんP、masaminP、HPHP、marloPなど、そういう「高い技術」を持っているなと自分が感じるニコマスPは枚挙に暇がありません。しかし、今挙げたPたちは、「技術派」として認知されているでしょうか? この現状が、視聴者側に「技術」と「目新しさをアピールする能力」の錯誤が起きていることの顕れではないかと思います。単純に「こういう映像が」見たい、というだけならばそれでよいでしょう。しかし、完成されたもののみを見て、その背景を理解しないままに技術について述べるのはとても危険なのではないかと感じます。逆に言えば、そこで(それがウケるかどうかとはまったく関係なく)どのような技術が使われているか、どのような効果を挙げているか、ということを分析できる方こそが、優れた「批評」を行うことができる視聴者ではないでしょうか。

実はここでいま自分が言っていることは、敷居さんのエントリに対する反論どころか、切り口や視点が異なるだけで、本質的には同じ事を言っています。長々と書いてある割に、たった一言「受けるものが受けるんだよ」というトートロジーのみが主題なわけですから。


ところで、まだ自分の中できちんとまとまっているわけでもないですが、なぜ自分がそう考えるのかという理由は、アイマスMADはどこまで行っても二次創作であり、自分はアイドルマスターというゲームに執着しているから、なのかも知れません。
不自然さをアピールし、元のアイドルマスターというゲームから「離れる」ベクトルのもののほうが「ウケる」というのは、結局のところみんな「アイマス」が好きなのではなくて、「アイマスMAD」というひとつのくくりのジャンルが好きなだけなのではないかなあと寂しくなってしまうから、ということもあるかもしれません。

ただ一方で、作り手側がそうしたくなる理由もとてもよくわかります。先日のエントリにも書きましたが、単に「作りたい」だけならば、ローカルディスクにおいて見ていれば良いのであって、他人に見てもらえなければ、公開する意味は薄れてしまいます。いかにいわゆる「アイマス愛」があったとて、これは寂しいものです。あまり深くは言及しませんが、最東みんくPが最近嘆いていたことには、こういった感情が影響しているのではないかとも想像できます。
また、単にアイマスは己の創作表現のための媒介でしかない作り手の方にとっても、その動機はわからなくもないです。オリジナリティを出したいならば、完全にスクラッチで作ったオリジナル作品を作ったほうが、よりオリジナリティが出るのが当然です。でも、完全なオリジナルはニコニコ動画ではあまり評価されないのではないかと思います。具体例を出したほうがわかりやすいと思いますが、オリジナルの普通の歌い手が歌っているボーカル曲と、初音ミクを用いたオリジナル曲があり、その両者のクオリティが同程度ならば、おそらくは後者のほうが圧倒的に人気が出るのではないかと想像します。ならば、せっかくだから人気が出そうなほうで、と考えるのは人間の自然な感情の動きだと思いますしね。

結局のところ、こういった話には何が正しいということもないですし、それぞれが自分の好きにすればよいことだと思います。結論はないと最初に書いたとおりです。けれど、自分が何のために動画を作っているのか、というのを「楽しいから」の一言で終わらせるのではなく、時々はこういったことを語るのも楽しいものですよ。