にこ繭。(cocoonPのBlog)

はてなダイヤリーからインポートしたかつてのBlogの跡地です。

ポリゴン・モーション抽出ツールに関する私見

ここ数日、ニコマス界隈に一つの波紋が広がっています。
アイマスのデータディスク(や、DLC)から吸い出したファイルを使って、ゲームそのもののポリゴンモデルデータやモーションデータを閲覧したり、汎用的な形式に変換したりすることが可能なツールの存在が広く知られたからです。
基本的には否定的な意見が多いようですね。

実際にはこのツールは一年前くらいからずっと開発が進んでいたのですが、つい最近フェイシャルモーションなどの解析機能が追加され、似たようなことをされている有名な方がBlogに書いたため一気にうわさが広まったのではないかと思っています。
この「有名な方」は以前ニコニコ動画に自作のポリゴンビューワを紹介する動画をうpして界隈で叩かれた経験をお持ちですが、そのときもなんでそんなに叩かれなければならないんだろうと強烈な違和感を感じた覚えがあります。

以下、このツールについての自分の考えをいろいろな方面から述べてみます。

■このツールによって得たデータを加工した、レンダリング済み動画を作成することの是非

自分は支持します。
誤配信の件でわかむらPが述べていたように、作りたいものにそれが必要だと思ったら躊躇なく使えばいいと思います(それが有償で頒布とかなら意見が変わりますけど)。なぜなら、自分もまたMAD屋だからです。
これについての自分の反応はわかむらPに直接IRCで「100%支持する」と話しましたが、その様子は2chの例のスレに晒されたりしていますので興味があればぐぐってみてください。

音MADの中には、アイマスのデータディスクからwavを吸い出して使用しているものも沢山あります。ゲームディスクから吸い出した背景の2D絵も頻繁に使われています。厳密には、DLCの発売日は、一般に出回っている日の翌日です。また、CDや書籍、ゲームソフトの場合はそれよりもかなり早く「フライングゲット」することが出来ます。そういったものを使って「ジェバンニ一晩でやってくれました」な動画を作っているPはたくさんおられます。
モデル吸出しや誤配信のフライング使用となんら変わるところはありません。でも、同じように叩かれたりはしていませんし、むしろ褒め称えられているでしょう。

つまり、見ている方もうすうすは「出力結果がよければ手段は何でもいい」と思っているのではないかと思います。

ただ、吸い出した結果をただそのまま組み合わせただけの動画を作成し公開する、という行為については、(法的な意味ではなくMAD的な意味で)別に悪いとは思いませんが、何の創意もないつまらない行為だと思います。自分ならやりません。

■このツールによって得た無劣化のデータを不特定多数に配布する行為

強く非難します。
これには、たとえば完全な形のポリゴンモデルやモーションを含むDirectXファイル(.x)などを配布する行為も含みます。
ゲームディスクを持っていない人、ないしはDLCを購入していない人に、直接その中身の一部を渡す行為にほぼ等しいからです。自分はMAD屋ではありますが、warezは嫌いです。

このツールの作者の方は、ゲームディスクを所持している人以外に使わせないような配慮をしている形で公開されました。具体的には、アーカイブにパスワードをかけていて、ゲームディスクを持っていなければ基本的にそれがわからないようになっていました。

そういえば、アイマスSPもプロテクトが破られ不正に出回ったのち、それを解析した人がいて、イメージファイルを書き換えることで使用できるデバッグモードが見つかったりしているようですが、そういう技術的な試みはおもしろいなと思います。
また、そのようなことを行うためにはPSPカスタムファームウェアが必要ですが、「メディアインストールに対応していなくとも、ディスクの内容をメモリスティックに保存して遊ぶ」という目的に使用するのであれば、それは非常に便利なことだと思います。ただ残念ながら、そういった作者の配慮があったとしても、勝手にパスワードを解いて再アーカイブしたり、パスワードを添付して再配布するような出回り方はきっとするでしょうね。ゲームソフトのisoイメージが出回っているのと同じように。
少し前にマジコンがニュースで報道されるほど社会的に顕在化したりしていましたが、そういう輩が求めているのは技術的な面白さや創意工夫の面白さではなく、たんに「ただでゲームが遊べる」程度のつまらない欲求ですから。与えられることしか出来ないのに無駄に偉そう、というあたり、赤子と同じような精神性なのでしょう。

■このツールによって得たデータを非可逆に劣化した状態で配布する行為

具体的には、たとえばMMDのモデルデータとして配布する(多分素のデータのままでは頂点数が多すぎてPMD化できないかも。試してないですけど)とか、頂点数を減らしたポリゴンモデルを使ってゲームを作るとかの行為の事を指していますが、そこに創作性があるなら(やはり法的にではなくMAD的に)、あんまり積極的に薦めたくはないですけれど、やりたい人がいるならやればいいのではないかと思います。

■このツールによって得た動画を自分自身が作るかどうか

正直言ってわかりません。とりあえず現時点ではなんとなく当該ツールを起動して「ふーん」と眺めて終わりでした。作者の方の技術と根気には敬意を表しますし衝撃的ではありましたが、それほど楽しいものでもありませんでした。
なんというか、「無修正のAV」みたいな存在ですかね。

■このツールの存在自体の是非

感想としては是4割、非6割くらいですかね。いや、五分五分かな。
是の部分は、レンダリング済み動画について述べたように、単純に工夫して表現の幅を広げる余地が増加しているから、というのが理由なのですが、非の部分の理由は、よく言われているバンナムに対する配慮やwarezに対する嫌悪の情はそれほど大きくありません。自分の考えをソフトウェアに例えるならば、

  • ゲームキャプチャ映像や音声、背景等を加工したMAD→市販ソフトウェアに含まれるバイナリファイルを勝手に組み込んでソフトウェアを作成した
  • 吸出したポリゴンモデルやモーションを使用したMAD→市販ソフトウェアをリバースアセンブルして得たソースを含んでソフトウェアを作成した

くらいの違いしかなく、違うのは「手段」であって「黒さ」ではないと思っています。
「リバースアセンブルはソフトの利用規約で禁止されているから、バンナムを2重に裏切っている」くらいの違いしかなくて、どちらも大差ない犯罪でしょう、普通に。仮にこれらが法廷で裁かれたとして量刑に差が出るとは思えません。むしろカジュアルに出来る分、バイナリ窃用のほうがタチが悪いようにも思います。
もし映像加工MADがポリゴンモデル吸出しより「罪が軽い」と思っているなら、MADなんて作らないほうがいい気がします。BBコマンドがあるからといって、バンナムは会社として、コンテンツホルダーとしてライセンスフリーSDKをわれわれに提供してくれているわけではないのです。仮に現場における中の人がそういうつもりだったとしても。

だから、自分には黒さが理由でこのツールを非難する気はありません。

ではこのツールに何を危惧しているのかというと、自ら作り出したものでバンナムのオリジナルに近づける、再現性重視の創作活動を行っている製作者の方々にいわれのない非難が浴びせられたり、あるいはモチベーションを減衰させてしまったりするかもしれないからです。
具体例として、BBコマンドが出回っている現在、異常な集中力をもって完璧に全抜きした動画があったとしても、それが理由で評価する人はいないでしょう。手で全フレームのマスクを切って「抜き」を行おうとするニコマスPはほとんどいないと思います。ほとんどの見る方には見分けが付かないためです。つまり、ある創作行動について、より便利な手段が現れたためにモチベーションを失う、という例はすでに実際に発生しているのです。

これについて、非常に質の高いアイマスのキャラクターをモデリングされているセバスチャンPがモデリングについてBlogで苦悩を述べておられましたが、モデラー以外の方でも、たとえばMMD界隈にとってはモーションデータが同様な存在になるでしょう。
先日のわさびPとの合作のモーションのように、非常に再現性の高いトレースモーションを作成された場合に、やはりセバスチャンPが心配する「再現性の高すぎる作品」に対してのネガティブな反応が予想されます。というか、すでに件の合作動画にも残念ながらそういうコメントがついていました。
MMD界隈にはやかPのようにアイマスのモデルを多数作っておられる方もいらっしゃるので、モデル面でも同様な問題を抱えていますね。

そういう意味では、こういうツールはあって欲しかったと同時に、あって欲しくもなかったというのが正直な気持ちです。でも、自分が作者の方と同等のスキルを持っていたとしたら、きっと公開していたと思いますから、作者の方を非難する意思はまったくありません。
そういう意味では、その「黒さ」をもってこのツールやそれを使用した動画の作者を非難するような方と自分の考え方はっ向から対立します。

きっとこの先、大部分のニコマス界隈の方はこのツールについてある種「見てみぬフリ」という反応をされるのではないかと思います。ですが、「ニコマス」とは何なのかということをあらためて考えるにあたって、このツールの存在は大きな意味があるのではないかと感じました。